(118)ムーミンを知ってる人が一番多い国

「実はあまりムーミングッズ持っていなくて」と答えている私ですが、いた、こんなところにもムーミンが。

ムーミン新作アニメのエグゼクティブプロデューサーから聞いた話によると、フィンランド国民の97%がムーミンを知っているのだそうだ。そして世界にはその数を上回る国があった。日本だ。なんと国民の98%がムーミンを知っているのだそうだ。フィンランドでは、いまムーミンの作者トーベ・ヤンソンの誕生日を旗日にしよう、記念日にしようという動きもある。そんなムーミンの生まれた国よりもムーミンを知ってる人が多い日本って。

白樺花粉を避けるため、個人的に毎年5月に一時帰国しているのだけど、いい機会だ。ムーミンの認知度98%というのを意識しながら日本を旅してみよう。

小さなトートバッグ、リュック、バッグにつけるアクセサリー、服、ポーチ、スマホケースなど、駅ですれ違う人、レジを待つ列の中、カフェで居合わせる人、日本のあちこちでムーミングッズを見かける。フィンランドの家には、アラビアのムーミンマグとかフィギュアだの、家の中にムーミングッズの一つや二つはあるかと思う。だけど、街なかでこんなにもムーミングッズを見かけるかというと、疑問だ。トーベ・ヤンソン生誕100年の記念年に日本の取材の同行で、街ゆく人たちに「今なにかムーミングッズを持っていますか?」と聞いて回ったことがあるのだけれど、その時も、家にはあるけれど今ここには持ってないという答えが続いた。

私はそれほどムーミングッズを持っている方ではない。恐ろしい数のヘムレンさんのフィギュアはあるけれど、部屋を見渡しても編みぐるみのスナフキンと小さなボードがあるくらいだ。でも、街を歩いている時に誰かに聞かれたら、バッグインバッグはムーミンだし、ペンケースはニョロニョロだし、手帳についた付箋にまでムーミンがいる。そしてはたと気づいた。どれも日本のムーミングッズなのだ。

フィンランドでは5月9日のムーミン美術館とアラビアのコラボマグ発売初日、最初の一週間だけはムーミン美術館のショップ(美術館そのもののオープンは6月17日)でのみ販売されるとあって、長蛇の列がショップのあるタンペレホールの外にまで続いた。

とはいえ、マグは外に持ち運ぶようなものではないので町で見かけることはほとんどない。でも、誰かが身につけているムーミンは、知らないうちに視覚から記憶の中に刻み込まれていく気がする。一時帰国の最終日。私はムーミンハウスカフェで友人たちと句会をしていた。帰り際、句友たちがこぞってムーミングッズのお買い物をしていて笑ってしまった。みんな特別ムーミンが好きというわけではないのに、なんだろう、なんとなく手にしてしまうムーミングッズ。自分の家にそれほどなくても、日常の中にどれだけのムーミンを目にしていることか。話はよく知らなくてもムーミンを知っている人たちが98%、なんとなく頷ける気がしてきた。

森下圭子

フィンランドで必ず大騒ぎされるのがこのペンケース。これに限らず日本のムーミングッズはフィンランドでもすこぶる評判がいい。