ニョロニョロについて知っておきたい7つの謎
夏至が過ぎ、7月に入りました。この時期、ニョロニョロについてよく見聞きするような気がしませんか?
ムーミンバレーパークではアンブレラスカイ『ニョロニョロの雷スプラッシュ!』が始まりました。今年はなんと101体ものニョロニョロが大量発生! ちょっと珍しい、芽を出しはじめたばかりの小さなニョロニョロも混じっているので、ぜひ現地で探してみてください。
すでに終了していますがムーミン公式オンラインショップPEIKKOの夏至祭のイメージキャラクターもニョロニョロでしたし、ニョロニョログラスやクールクッション、モバイルバッテリーなどのユニークなグッズも注目を集めています。
なぜ、この時期といえばニョロニョロなのでしょうか!?
ニョロニョロはトーベ・ヤンソンが描いたムーミンの小説、コミックス、絵本に登場します。が、それぞれの媒体で、いえ、小説のなかでも作品によって設定が微妙に異なることも。
今回は謎いっぱいのニョロニョロのひみつについて、どの作品にどんなふうに書かれているのか詳しく掘り下げて、7つ、ご紹介してみたいと思います。
①年に一度、集会を開く
小説第3作『たのしいムーミン一家』で、冒険号に乗って海へ漕ぎだしたムーミンたちは、はなれ小島に上陸。そこはたまたま、毎年6月になるとニョロニョロたちが大集合する島でした。
年に一度、ニョロニョロが、世界中をさまようおわりのない旅に出かけるまえに、この島に集まります。彼らは世界のあらゆる方角から、その小さくて青白い、うつろな顔で、重苦しくだまりこくってやってきます。
どうして毎年、こんなふうに集まるのか、説明するのはむずかしいのです。なにしろ、ニョロニョロたちは耳も聞こえなければ、話すこともできず、遠い遠い目的地をじっと見つめるだけなのですから。
(略)
島のまん中には、花にかこまれ、草におおわれたあき地がありました。ここでニョロニョロたちは、毎年夏至の日に集まって、ひみつの会合を開くのです。
(『たのしいムーミン一家』/講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
夏至といえばニョロニョロ!という理由は、島で年に一度の集会を開くからだったんですね。
②電気を食べる!?
では、彼らは島に集まって何をしているのでしょうか?
短篇集『ムーミン谷の仲間たち』収録の「ニョロニョロのひみつ」ではタイトルどおり、ニョロニョロのボートに乗り込んで旅に出たパパの目を通じて彼らのひみつの数々が明らかに!
ニョロニョロたちは島の中央に集まりました。嵐を前にした海鳥そっくりに、かみなりを待ちうけて、みんな南に顔を向けています。そうして、一ぴきまた一ぴきと、かみなりが光るたびに、ほのかに光りはじめたのでした。(略)
ニョロニョロに命を吹きこめるのは、はげしいかみなりだけなのです。彼らはぎっしりと充電されているけれど、つめこまれているだけで、どうにもならないのです。感じることもできなければ、考えることもできません--たださがすだけなんです。でも電気をおびることで、ようやく生き生きできて、強くはげしく感じることができるのです。
それこそニョロニョロたちが、もとめているものでした。もしやつらがおおぜい集まったなら、たぶん、かみなりだって引きよせることができるでしょうよ。
(『ムーミン谷の仲間たち』収録「ニョロニョロのひみつ」/講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
ブログ「フィンランドムーミン便り」でもおなじみの森下圭子さんがアソシエイトプロデューサーを務めた映画『かもめ食堂』に、「ねぇ、知ってました? ニョロニョロって電気を食べて生きているんですよ」 というセリフが出てきます。口は描かれていないので、食べているかどうかは定かではありませんが、ニョロニョロたちはかみなりの電気でエネルギーをチャージしていたんですね!
③たねから生える?
ニョロニョロと夏至にはもうひとつ深い関わりがあります。
第5作『ムーミン谷の夏まつり』によれば、ニョロニョロは「夏至の前夜にたねをまくと生えてくる」のです!
驚きの誕生方法については昨年のブログ「ニョロニョロが生まれる夏至前夜」で詳しくご紹介していますので、ぜひご参照ください。
④触ると感電する?
たねから生まれたばかりのニョロニョロは強い電気を帯びていて、ニョロニョロにかこまれた公園番は髪の毛から火花を散らし、体全体を光らせながら逃げていきました。
コミックス第9巻『彗星がふってくる日』には、ニョロニョロが通ったせいでムーミンやしきの床が焼け落ちてしまうシーンが!
もしもニョロニョロを見かけるようなことがあったら、近づかないのが賢明かもしれません(笑)。
⑤ニョロニョロの弱点は?
『たのしいムーミン一家』で、めずらしい花に夢中になっているうちにニョロニョロたちに取りかこまれてしまったヘムレンさん。どんどん増えるニョロニョロに怯えて、気圧計の掛かっていた高い棒によじ登り、指笛を吹いて助けを求めました。
それを聞いて駆けつけたのはスナフキン。
「ニョロニョロたちは、しゃべることも聞くこともできないし、目だってぼんやりとしか見えないんです。ところが、感覚だけはすばらしく敏感です。ちょっと棒を前後にゆすってみてください。やつらは地面の動きでそれを感じて、きっとこわがりますよ」
(『たのしいムーミン一家』/講談社刊/山室静訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)
アドバイスどおり、ヘムレンさんが棒をぶるぶるとゆすぶると、ニョロニョロたちは慌てて逃げていきました。
⑥言葉を喋る? 喋らない?
小説にははっきりと「言葉を話さない」という記述があるのですが、一部のコミックス作品にはニョロニョロが話す場面が。
コミックス第14巻『ひとりぼっちのムーミン』(筑摩書房刊/冨原眞弓訳)では、カバンを持ってムーミンやしきに押しかけ、「カクテルはないの?」「ベッドがほしい」などと言い出すのです。
また、絵本『それからどうなるの?』(講談社刊/渡部翠訳)には、体を折り曲げて椅子に座り、カップ&ソーサーを持っている珍しい絵があります。
「ニョロニョロって、電気なの! さわるとビリビリするんだよ!」という文章が添えられていて、ミムラねえさんが髪を逆立てて逃げていく様子が描かれています。
⑦足がある?
ニョロニョロは小説第1作『小さなトロールと大きな洪水』から登場しますが、びっくりなのは、その挿絵。
体の下には短い2本の足のようなものがあるのです!
この作品はムーミンママやムーミントロールの姿も今とはかなり違ってとてもユニークなので、本を確かめてみてくださいね。
第2作『ムーミン谷の彗星』のニョロニョロの絵にも、その名残りが見てとれます。
これは、ムーミン谷に帰る途中の一行がニョロニョロの列に出会う場面。「ニョロニョロたちはたえまなく手足をゆり動かしながら、本能のままに東へ向かっている」と書かれています。
以上、知れば知るほど謎も魅力も深まるニョロニョロについて7つご紹介しました。
ムーミンシリーズにはさまざまな個性をもったキャラクターたちが出てきますが、特にニョロニョロはあちこちに登場しているので、ニョロニョロに注目しながら作品を読んでみるのも楽しいのではないでしょうか。
ムーミンバレーパークでも、コケムスにニョロニョロが生えてくる展示があったり、ムーミンやしきの地下にニョロニョロが潜んでいたり、あちこちに顔を出していますから、その姿を探しながら園内を巡ってみるのもオススメですよ。
萩原まみ(文と写真)