「海のオーケストラ号」読んでから行く、行ってから読む?

今回は「ムーミン春夏秋冬」番外編として、今もっとも旬なムーミンバレーパークの話題をお届けします。
オープンするやいなや大勢の旅人(来場者)で賑わっているムーミンバレーパーク。展示施設KOKEMUS(コケムス)でムーミンとトーベ・ヤンソンの世界を探求するもよし、レストランでムーミンの物語をイメージしたお料理やパンケーキに舌鼓を打つもよし、名言が散りばめられたベンチに座ってのんびりと湖をわたる風を感じるもよし、フォトジェニックなスポットで写真を撮るもよし、世界最大級のショップで限定グッズのお買い物を満喫するもよし、楽しみ方は人それぞれですが、ムーミンバレーパークを訪れたからには見逃せないアトラクション、それが体感モーフィングシアター「海のオーケストラ号 Merenhuiske(メレンフイスケ)」です。

ムーミン屋敷を背にして、湖に沿って進んでいくと、囲いに覆われた大きな建物が姿を現します。のぞいているのは、船の舳先!?

囲いの中に入ってみると、壁一面に船の図面が。どうやら、若き日のムーミンパパの親友フレドリクソンが船の設計に取り組んでいたようです。フレドリクソンの助手の案内で、わたしたちも船に乗り込むことに……。冒険の旅の始まりです!

このアトラクションの原作となったのは、小説『ムーミンパパの思い出』。ムーミンパパは「思い出の記」を執筆しながら、かつて経験した武勇伝を息子たちに語ってきかせます。

まだ子どもだったひとりのムーミントロール(のちのムーミンパパ)は、みなしごホームを飛び出して、人生の第一歩を踏み出しました。発明家のフレドリクソンと出会い、ヨクサル(のちのスナフキン父)、ロッドユール(のちのスニフ父)と共にフレドリクソンが造った船「海のオーケストラ号」で大冒険に乗り出します。巨大な竜のエドワードの力を借りて航海が始まったこと、船を覆い尽くすニブリングの群れ、王さまの島での暮らし、フレドリクソンが改造に成功した海のオーケストラ号での新たな冒険……。

アトラクション「海のオーケストラ号」は、起伏にとんだ原作をぎゅっと濃縮し、プロジェクションマッピングを使用した美しい映像と臨場感あふれる音、風や水などの演出、驚きの仕掛けで乗客たちを冒険の旅へと誘います。

アトラクションに登場した以外にも、原作『ムーミンパパの思い出』には興味深いエピソードが数々あります。ニブリングにさらわれてしまうヘムレンおばさんとムーミンパパとの因縁、王さまの園遊会での出来事、人をからかうのが大好きなミムラのむすめ、ふわふわと宙に浮かぶ白いおばけの正体、ミムラ夫人とヨクサルの出会い、ロッドユールとソースユールの結婚式などなど、原作を読んでおけば、アトラクションがもっともっと、何倍も楽しめます!逆に、アトラクションを見て、ヨクサルってかっこいい!とか、エドワードが気になる~!なんて方は、ショップで原作本をお土産に買って、ぜひ復習を。『ムーミンパパの思い出』は、ムーミンパパがちょっと大げさに語る過去のお話と、現在のムーミン一家の様子が交互に綴られていくユニークな構造の小説。いわば、ムーミンシリーズの前日譚にあたる作品ですから、初めてムーミン童話を読む方にもおすすめです。

「海のオーケストラ号」の向い側には、「ニブリングの店 Tahmatassu kauppa(タフマタッス カウッパ)」 が。ニブリングのぬいぐるみや『ムーミンパパの思い出』にまつわるグッズ、このショップ限定のポップコーンなどを買うことができますよ。ショップ袋も、看板と同じ、かわいいニブリングの柄なんです。

また、『ムーミンパパの思い出』を読めば、「海のオーケストラ号」だけでなく、ムーミン屋敷の中で見られる海泡石のトロッコにまつわるエピソード、ムーミンパパとムーミンママのなれそめ、夏至のころにちびのミイが生まれたことなども詳しく知ることができます。「海のオーケストラ号」というちょっと不思議な名前の由来については、アトラクションの初めにフレドリクソンの助手が教えてくれますが、もちろん原作でもちゃんと描かれていますよ。ムーミンバレーパークに行くと原作を読み返したくなって、原作を読み返すとまたパークを訪れたくなります。読んでから行く、行ってから読む、どちらも大正解!  まだムーミンバレーパークへの旅の予定がない方も、ぜひ予習をしておいてくださいね。

萩原まみ(文と写真)