ニョロニョロが生まれる夏至前夜
新型コロナウイルスの影響でいつもとは違う春が過ぎ、早くも6月に入りました。今年は21日の日曜日に夏至が巡ってきます。北半球では昼がもっとも長い日で、フィンランド北部では真夜中でも太陽が沈みません。日本の場合、夏至は祝日ではありませんが、フィンランドではとても重要な国民の祝日。フィンランドの夏至祭について知りたい方は森下圭子さんのブログをご参照くださいね。さて、今回はこの夏至の時期を舞台にした小説『ムーミン谷の夏まつり』のなかから、ニョロニョロにまつわる驚きのエピソードをピックアップしました。
ムーミン谷の近くの山が火を吹き、洪水の大波が押し寄せてきました。ムーミンやしきも水に浸かってしまい、ムーミンたちは流れてきた劇場に移り住みます。一方、その年、スナフキンはまだムーミン谷に帰ってきていませんでした。夏至の前夜にやらねばならないことがあったからです。
劇場が浅瀬に乗り上げた衝撃で、ちびのミイは劇場の床から海へポチャンと落ちてしまいました。そばを流れていたムーミンママの裁縫かごによじ登り、眠ってしまったミイ。なんと、その裁縫かごを釣り上げたのはなんとスナフキンでした!
ふたりが出会う場面については、ムーミンクイズ「スナフキンが嫌いなものは?」でも詳しくご紹介しています。スナフキンはちびのミイをポケットに入れて、公園にやってきました。公園は長いフェンスに囲まれ、木はきっちりと丸や四角に刈り込まれ、あちこちに何かを禁止する立てふだがありました。「ぼくの大きらいなやつが、ひとりだけいるんだ。それが、あの公園番さ。『べからず、べからず』と書いてある立てふだなんか、ぜんぶ引きぬいてやるぞ!」
スナフキンは、リュックサックの中をごそごそやって、大きなふくろを一つ、引っぱり出しました。それには、つやつやした白い小さなたねが、いっぱい入っていました。
「それ、なんなの?」
「ニョロニョロのたねさ」
ちびのミイはびっくりして、聞きました。
「へーっ! ニョロニョロは、たねから生まれるの?」
「そうとも。でもかんじんなのは、夏至の前夜にまかねばだめだってことなんだ」(略)
太陽は沈みかけていましたが、あいかわらずあたたかかったので、まもなくニョロニョロが芽を出しはじめました。
かりこまれている芝生のあちこちに、白いキノコのような、まるい小さなものが頭をもたげてきました。(略)
「ニョロニョロたちは生まれたてのとき、とくべつに電気を持ってるんだよ。ほら、こんどは手が出てきたぜ!」
(新版『ムーミン谷の夏まつり』講談社刊/下村隆一訳/畑中麻紀翻訳編集より引用)ニョロニョロに取り囲まれた公園番はぱっと光り出し、太陽のように輝きながら、出口のほうにすっとんで逃げていきました!
このインパクト大なエピソードは、テレビアニメ『ムーミン谷のなかまたち』シーズン1第7話「スナフキンと公園番」で映像化されています。大群で移動するニョロニョロたち、それを見送る森の子どもたちがとてもかわいい! 原作では男性のろうや番のヘムルが女性に変更されるなど、 新作アニメ独自のユニークなアレンジも見逃せません。
また、コミックス第14巻『ひとりぼっちのムーミン』(筑摩書房刊)にも、ニョロニョロがたねから生える場面があります。あやしい商売で手に入れたお金をもっと増やしたいと考えたスニフに、スナフキンは「金はもちろん果樹園につぎこむべきさ!」とアドバイス。ところがスニフが買わされたのは……。このお話では、ニョロニョロがカバンを持ってムーミンやしきにやってきたり、言葉を喋ったりという、小説とはまた違う姿が描かれているので、ニョロニョロが気になる!という方は必読です。
ニョロニョロはムーミンシリーズのあちこちに顔を出しますが、その不思議な習性が特に堀り下げて描かれているのは、新版が発売されたばかりの短編集『ムーミン谷の仲間たち』収録の「ニョロニョロのひみつ」。自由気ままな暮らしに憧れたムーミンパパが、ニョロニョロのボートに乗り込んでいっしょに旅をするお話です。毎年6月になると、はなれ島に世界中から集まって大集会を開くというニョロニョロ。自由に旅をして、仲間と一堂に会する、そんな彼らがとりわけ羨ましく感じられる今日この頃、今年の夏至には『ムーミン谷の夏まつり』や『ムーミン谷の仲間たち』を読んで冒険気分を味わうのはいかがでしょうか。
萩原まみ